病院長のコラム

玉野三井病院訪問診療

1)目的

在宅(もしくは施設)で生活・療養中の患者さんが、可能な限り現在の住居での生活を継続できるように、定期的な医師の訪問を通じ、患者さんに対して医療的な身体のマネジメントを行う。

2)対象

玉野三井病院が関わる医療圏在住の日常生活自立度がランクA・B・Cの患者さんで、一人で通院が困難な方。

3)訪問診療の契約

訪問診療を希望される患者さん本人もしくは患者さんのキーパーソンであるご家族に、訪問診療の内容を十分説明し、同意を得たうえで、契約書にサインをいただく。

4)終末期医療に対する意思確認(Advance Care Planning)

訪問診療を希望される患者さん本人もしくは患者さんのキーパーソンであるご家族に、訪問診療の内容を十分説明し、同意を得たうえで、契約書にサインをいただく。

終末期の医療対応に関するご希望を、あらかじめ契約時にうかがっておく。すなわち

  1. 看取りの場所は在宅(もしくは施設)がよいか病院が良いか
  2. 心肺停止時の心臓マッサージや昇圧剤投与を希望するか
  3. 蘇生されたが十分な自発呼吸が得られないときの気管内挿管や人工呼吸器装着を希望するか
  4. 経口栄養摂取が困難になったとき、末梢点滴・中心静脈栄養・経管栄養を希望するか
  5. 痛みや呼吸困難に対し、麻薬や鎮静剤を使用して苦痛を除去することを最優先で希望するか

などである。

5)定期訪問診療

基本的に患者さんの病状が安定している場合は4週毎に訪問し、重症者や患者さん・ご家族の希望がある場合には2週間毎に訪問する。また、終末期の患者さんは毎週訪問する。定期訪問診療では、毎回訪問診療料(自宅と施設では異なり、一人と二人以上は異なる)をいただき、月1回在宅時総合医学管理料を加算する。また、患者さんが退院された場合は、3回に限り在宅復帰早期加算100点を総合医学管理料に加算する。
訪問診療は、主治医と看護師二人で行い、一般的な問診、触診、聴打診や血圧、脈拍、酸素飽和度の測定を行う。主治医は、毎回診療の要約を、玉野市が在宅療養患者さんに配布しているメバルノートに記録する。定期の訪問の間で、患者さんの健康にかかわるエピソードや健康状態に対する意見や質問があれば、患者さん・ご家族にメバルノートへ記入しておいてもらい訪問時に見せてもらう。ケアマネージャーや訪問看護師などからのメッセージも記入してもらい、患者さんの病状に関する情報の共有化をはかる。但し、急を要するものは、メバルノートではなく直接病院に連絡していただく。
3か月に1回、定期採血検査を行う。在宅酸素療法を行っている患者さんは、動脈血採決キット2.5ml採血でガス分析のほかにCBCと一般的な生化学検査が可能である。ワーファリンコントロールを行っている患者さんは、毎月PT-INRの検査を施行し、ミルセラ投与中の患者さんは、毎月CBCを確認して薬剤量の調節をはかる。
季節的なインフルエンザワクチン予防注射は、アレルギーがなければ極力奨励し、訪問時に接種する。
訪問診療患者さんの薬剤投与は、基本的に院外処方で、あらかじめ利用される調剤薬局に処方箋をファックスしておく。患者さんの状態に合わせて内服薬の一包化をお願いする。インスリン自己注射の注射針と自己血糖測定用の針と測定チップはインスリン管理料に含まれるので院内の薬局で処方する。また、定期内服薬がない場合、院外処方箋なし加算を月1回の在宅時医学総合管理料に300点上乗せするので、その点数内でまかなえる臨時薬の下剤、軟膏やシップは院内で処方する。訪問診療において、院内処方分は夜間・休日も含め全て病院の持ち出しとなるので、予想される臨時薬は、予め院外処方しておく。同一月中に院外処方箋を発行していれば、院外処方箋なし加算は請求できない。

6)臨時往診

定期訪問診療のインターバルで体調に異変をきたした場合は、24時間いつでも三井病院に電話連絡してもらう。夜間、休日は当直医が電話対応し、対応困難な場合は主治医に連絡する。問題がなければ電話でのアドバイスや、手持ちの臨時薬などで様子をみる。その後、翌日病院からご自宅に電話をかけてみて、状態を確認する。必要なら、その都度臨時往診する。緊急往診時には、往診料に加え緊急往診加算を算定する。問題が深刻そうであれば、救急車もしくはご自宅の車で緊急来院してもらい、入院対応とする。訪問診療患者さんからの入院要請は、基本的に断れない。明らかに、高次病院での急性期治療が必要な場合は、患者さん・ご家族と相談の上高次病院に紹介し、病状が安定すれば玉野三井病院への転入院を引き受ける。
患者さんの体調の異変の連絡が、営業時間内であれば、まず外来看護師(主に外来師長)が電話対応し、対応困難な場合は主治医に連絡する。問題解決が、看護師の訪問ですみそうであれば、臨時訪問看護を行う。患者さんが、訪問看護ステーションをすでに利用していれば、そのステーションに臨時訪問看護を依頼する。

7)訪問看護ステーションとの連携

患者さん宅に設置した医療機器の管理や、服薬管理、保清・点滴・褥瘡処置などの看護手技を必要とする場合、ケアマネージャーと相談して、定期的な訪問看護を介護サービスプランに組み込んでもらう。玉野三井病院の看護スタッフでの対応が困難な場合は、外部の訪問看護ステーションに依頼し連携する。外部訪問看護ステーションに訪問看護を依頼する場合は、訪問看護指示書を主治医がステーションあてに作成する。訪問看護指示書は、毎月発行し、指示内容に変更があれば、その都度更新する。

8)在宅での看取り

患者さんが、終末期の状態になった時には、定期訪問診療を週1回にして、看取りに備える。ご家族の不安をとるために、24時間対応の訪問看護ステーションに介入してもらって、ご家族のメンタルサポートをしてもらう。患者さんへの呼びかけに反応が見られなくなって、亡くなる直前の時期の努力呼吸や苦声は、患者さん本人がしんどいわけではないとご家族に十分説明し、あわてて救急車を呼ぶ必要はないことを理解してもらう。患者さんが呼吸をしなくなったら、ご家族が呼吸停止に気づいた時間を記録してもらい、訪問看護ステーションに連絡してもらう。訪問看護ステーションの看護師に患者さんのお宅に行ってもらって、呼吸停止を確認してもらったら、玉野三井病院に連絡してもらう。病院は主治医に連絡して、主治医が患者さんのお宅を訪問し、死亡確認の上死亡診断書を作成する。死亡診断書の死亡時刻は、ご家族が呼吸停止に気づいた時間を記入する。死亡場所は自宅とし、自宅の住所をご家族に確認しながら死亡診断書に記入する。
呼吸停止の時間が深夜の場合、主治医は早朝1番に患者さんのお宅を訪問し、死亡確認と死亡診断書の作成を行う。
死亡診断書は2通作成し、控えを玉野三井病院に保管する(コピーや複写で可)。

9)在宅での医療手技

1.慢性呼吸不全

慢性的に、患者さんの酸素飽和度が90%前後になったり、体動時の呼吸困難が強くなった場合は、在宅酸素療法(HOT)を開始する。吸入酸素量を決定するため、HOT導入時は数日入院の上動脈血ガスの確認が望ましい。入院困難な場合は、直接在宅で1-2Lの酸素吸入から開始して、1-2日後に訪問して動脈血を採血検査、吸入酸素量を調整する。入浴時や、体動時の息切れに対しては、安静時の酸素吸入量の設定より酸素吸入量を1-2L増やし、30分-1時間後落ち着けば、安静時の酸素吸入量に戻す。HOT導入例では、在宅時総合医学管理料に加えて在宅酸素療法指導管理料を算定できる。
CO2が蓄積しやすい2型呼吸不全の患者さんがCO2ナルコーシスを伴う呼吸不全増悪を併発した場合、救命には入院加療が必要である。意識レベルが昏睡状態で、自発呼吸が弱くなっている場合は、気管内挿管の上人工呼吸器装着が最優先である。終末期の延命を望まれていない患者さんのご家族に対しても、感染などの誘因が除去され、動脈血中のCO2減量ができれば、人工呼吸器から離脱の可能性は少なからずあることを説明する。但し、人工呼吸器離脱時に気管切開の処置が必要になる場合があることも、付け加える。
意識レベルが低下していても、自発呼吸がしっかりしている場合は、非侵襲的なCO2ナルコーシス治療として、ナーザル・ハイフロー・テラピーとBiPAPを考慮する。ハイフロー・テラピーは、高用量の酸素と大量の空気を混合して、毎分30-50Lの大量気を専用の経鼻カニューレから患者さんの気道に送り込むもので、弱いながらPEEP効果を有し、死腔をwash outし、酸素を送り込むと同時にCO2を減らすことができる。導入が手軽で患者さんへの負担は少ないが、BiPAPほどの確実性はなく、長期になると機械のレンタル料と酸素のコストがかさみ、包括医療では不向きである。BiPAPは、患者さんの自発呼吸に合わせ、酸素と混合した空気を、機械で呼気圧・吸気圧を一定に保ちながら患者さんの軌道に送り込むことができるので、患者さんがうまく機械と同調できれば、かなり確実にCO2を減らすことができる。またBiPAPは、COPDだけでなく、栄養失調や神経・筋疾患で呼吸筋不全をきたした患者さんにも有用である。但し、空気が漏れると効果が低下するので、フェイスマスクをかなり強く顔に固定する必要があり、強制的に機械から送り込まれる空気を吸入することと合わせて患者さんにはかなりのストレスとなる。また、吸気時に10-14cmH2Oの圧を気道にかけるので、まれに肺損傷による気胸を併発することがあるので留意する。
BiPAP装着時の吸入気は、酸素と空気の混合気なので、非装着時の酸素吸入量とBiPAP装着時の酸素流量は異なる。すなわち、BiPAP着脱ごとに酸素流量を切り替える必要があるので、入院中は二股コルベンを使用するほうが便利である。
BiPAPで動脈中の酸素分圧とCO2分圧の数値逆転を改善できない場合は、気管内挿管、人工呼吸器装着を選択するかどうかをご家族に判断していただくことになる。
PCO2が50-60tor台でも、PO2が70torr以上であれば、BiPAPの機械を装備して、在宅復帰可能である。BiPAP併用時は、HOTの指導管理料に合わせてBiPAPの機械加算を毎月算定する。
気管切開を行っている患者さんも在宅医療で管理できる。その場合、月に1回在宅気管切開患者指導管理料を算定する。気管カニューレの閉塞が見られない場合は4週毎に気管カニューレを交換する。カニューレ交換の手技料は指導管理料に含まれるが、カニューレの材料費は算定できる。喀痰の多い患者さんについては、吸引器を購入またはレンタルで設置し、自己喀痰吸引あるいはご家族による喀痰吸引を指導する。

2.糖尿病のインスリン療法

インスリン注射が必要な糖尿病患者さんの訪問診療を行う場合、在宅自己注射指導管理料を在宅時総合医学管理料に加えて算定する。本人の自己注射が困難になった場合、インスリン注射をご家族かもしくは訪問看護師に管理してもらう。日に複数回のインスリン注射は、本人以外の管理が困難なので、持効型インスリン1日1回打ちにする。血糖コントロール不良で内服が可能ならば、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬などの併用を考える。場合によっては、DPP-4阻害薬の代わりにGLP-1受容体作動薬の週1回注射をインスリン注射と併用する。訪問看護の都合で、毎日の介入が困難な場合は、可能な日数のインスリン注射を打ってもらう。低血糖発作を起こさないことを最優先し、血糖管理はHbA1c=8-9%台で良しとする。

3.皮膚欠損、褥瘡

訪問診療を行っている患者さんが、外的要因で皮膚欠損を生じた場合、創が浅くて小さく、浸出液がほとんどない場合は、リンデロンVGクリームかプロスタンディン軟膏を表皮形成されるまで1日2-3回塗布する。創が真皮内にとどまり、浸出液を伴う場合は創を消毒の上デュオアクティブで創を覆い保護する。表面は防水層であるが、入浴がある場合には、さらにその上から防水テープを貼って保護する。浸出液のためにハイドロコロイド粘着層が膨隆すれば、デュオアクティブを貼替え、そうでなければ2週間ぐらい放置する。
褥瘡を形成した場合、深さがNPUAP分類のⅠ、Ⅱの場合皮膚欠損の処置に準じる。Ⅲ、Ⅳの場合は、毎日褥瘡周辺の皮膚を弱酸性水もしくは弱酸性クリームなどで滅菌し優しく拭き取った後褥瘡内を水道水で十分洗浄する。褥瘡洗浄後は、浸出液を吸着するよう、吸水パッドで覆う。
半閉鎖療法を必要とする褥瘡の場合は、訪問看護師の介入を依頼し、治療効果を評価してもらう。褥瘡が悪化傾向にある場合は、1-2か月の褥瘡治療目的の入院を検討する。
腫瘍性の皮膚潰瘍で浸出液を伴う場合、白色ワセリン30gにゲンタシン軟膏10gを混合した軟膏を、毎日局所に塗布し、吸水パッドで覆う。腫瘍性の皮膚潰瘍は、軽快しないので、多量の出血を伴うようになれば、在宅での管理は困難で入院を勧める。

4.嚥下障害、経口摂取困難

一時的な食欲不振から脱水となった場合は、1日500mlの在宅での点滴を行う。しばらく、点滴が必要な場合は、訪問看護の介入を依頼する。通常介護保険で、週3回までは在宅での点滴が可能である。その対応で病状が改善しない場合は、主治医が必要と判断すれば、月のうち2週間までは連日で点滴できる。連日の点滴を外部の訪問看護ステーションに依頼する場合、通常の訪問看護指示書とは別に、特別訪問看護指示書による点滴指示が必要である。
末梢血管の確保が困難な場合は、主に腹部に19G翼状針を用いて500ml皮下点滴を行う。皮下点滴は、全開で30-40分かけて落とすことができ、翌日にはほぼ体内に吸収される。但し、浮腫が著名な患者さんに皮下点滴は適切でない。
嚥下障害が恒常的になり、ほとんど経口摂取困難になった場合は、経管栄養や中心静脈栄養の選択肢があることを本人・ご家族に説明する。経鼻経管栄養は、毎回流動食を注入する前に、胃管の先端の位置を確認する必要があり、在宅での実施は困難である。在宅療養を継続するには、胃瘻造設が必要である。胃瘻造設は、近年あまり推奨されない方向にあるが、患者さんが意思表示できる状態であれば、増設を勧める。胃瘻造設の処置自体は、10-20分で終わり、本人への負担は小さいが、瘻孔形成が完了する3週間の間は胃瘻チューブを自己抜去すると腹膜炎を合併する恐れがあり、入院の上介護服着用で対応する。入院中に、ご家族に対して流動食の注入手技や、胃瘻チューブの管理、瘻孔周囲の皮膚管理などを指導する。
胃瘻チューブは消耗品なので、およそ半年ごとに外科外来で交換する。在宅で万一胃瘻チューブが抜けたときは、放置すると瘻孔が閉塞するので直ちに病院に連絡する。新しい胃瘻チューブの挿入準備ができるまでは、尿路カテーテルを挿入して代用する。
中心静脈栄養を行う場合は、入院の上中心静脈カテーテル留置が必要である。経皮的なカテーテル感染を防ぐために、CVポートを皮下に埋め込んで、動注針をそこに刺して高カロリー輸液を行う方法もあるが、長期になると動注針を最低2週間毎に交換する必要がり、コストがかかりすぎるので推奨しない。また、同じ場所に針を刺すので、皮膚潰瘍を生じる場合がある。胆道感染や尿路感染から敗血症を合併した場合は、カテーテル感染につながり、CVポートの抜去、入れ替えがやっかいである。中心静脈カテーテルを在宅で管理する場合は、持続注入ポンプをレンタルで在宅設置し、調剤薬局に高カロリー輸液の調合を依頼する。毎日の点滴交換は訪問看護師に依頼し、夜間・休日の対応を考慮して、ご家族にも点滴交換の手技と持続注入ポンプのアラームへの対応を指導しておく。

5.癌性疼痛

腫瘍に由来した持続性もしくは突出性の疼痛に対して、軽度であればNSAIDs投与で様子を見る。腫瘍が進行性で末期の状態となれば、疼痛をNSAIDsでコントロールすることが困難となるので、オピオイドの投与を開始する。内服が可能な状態であれば、オキシコンチン5mgを12時間毎内服から開始し、突出痛に対してオキノーム2.5mg1包内服を指示する。また、抗うつ剤の併用や、夜間の睡眠導入剤の併用も考える。疼痛がさらに強くなれば、早期にデュロテップMTパッチ(2.1mg)3日毎貼付に変更したほうが、効果が安定し、在宅での管理がしやすくなる。オピオイドを使用する場合は必ず訪問看護を導入し、使用状況を管理してもらう。また、副作用としての排尿、排便障害に留意してもらう。内服が困難となった場合は、突出痛に対してアンペック坐薬(10mg)を使用する。疼痛の状況に応じて、デュロテップMTパッチ8.4mg-16.8mgまでの増量は可能だが、それ以上になると在宅での疼痛管理は困難となる。場合によっては、入院の上、モルヒネの持続点滴なども考慮する。

6.認知症

在宅療養を行っている患者さんが、認知症の症状が顕著になってきた場合は、長谷川式簡易知能テストを行い、抗認知症薬を開始する。一般的には、ドネペジル3mgから内服開始して、消化器症状などの副作用がなければ5mgに増量する。効果が乏しければ、8-10mgに増量するか、メマリー5mgを併用して、問題なければ20mgまで増量する。意欲低下などがみられる場合は、レミニール4mg×朝夕内服から開始し、問題なければ4週間後に8mg×朝夕内服に増量する。内服管理が困難な場合は、イクセロンパッチ9mg毎日貼付から開始し、4週間後に18mgに増量する。
認知症の周辺症状として、妄想や幻視・幻覚があり、攻撃的な場合は、メマリー5mg→10mgを追加したり、リスパダール1mg0.5-2錠やセロクエル25mg1-2錠を追加する。リスパダール投与時は、錐体外路症状や高プロラクチン血症に注意し、セロクエル投与時は、血糖が上昇しやすく、太りやすい、糖尿病には禁忌であることと、眠気が強いことに注意する。怒りっぽくなった場合には、デパケン200mg-300mgを夕食後に投与し、昼夜逆転、夜間徘徊がみられる時は、グラマリール25mg+レスリン25mg-50mgを眠前に投与する。不眠時には、レスリン25mg-50mg+マイスリー5mg-10mgを投与する。意欲低下や妄想による不安に対してはレスリン25mg-100mg投与し、食欲低下などに対してはレスリン25mg-100mg+セロクエル25mg-50mgを投与する。



最近1年半の間に死亡された訪問診療患者についての検討

(平成29年7月1日から平成30年12月31日の間)

玉野三井病院   磯嶋浩二

平成29年7月1日から平成30年12月31日の1年半の間に死亡された玉野三井病院訪問診療の患者30症例についての検討

  • 平成29年3月末に電子カルテシステムを導入しましたので、はっきりと経過が追える直近の1年半の間に亡くなった30症例について検討しました。
  • 平成30年4月より、看取りの基準が緩和され、半年以上訪問診療を行っている患者が、急変して病院に入院した場合でも、1週間以内の死亡であればいわゆる看取りに数えられます。
  • 比較的介護力のあるお家がほとんどで、当初から在宅での看取りの説明をしながら、状態が悪くなってきた時には24時間体制の訪問看護ステーションと連携をとってきましたが、看取りできたのは30例中9例(30%)で、その内3例が病院での看取りでした。

死亡症例の性別と年齢分布

  • 30人の死亡症例の性別は、男性21例、女性9例でした。
  • 年齢の分布は、最年少が62歳で最年長が101歳、平均は83.6歳でした。
  • 男性では86-90歳が最も多く7人、女性では81-85歳が最も多く3人でした。
  • 75歳以上の後期高齢者は、男性で17人(81.0%)、女性で8人(88.9%)でした。

看取りの症例数と看取りの場所

  • 看取りの症例数は9例でした。昨年度より半年以上訪問診療を行った患者で、緊急入院後1週間以内に病院で亡くなったものも看取りとみなされるようになったため、ご自宅での看取りが6例、病院での看取りが3例でした。
  • それ以外の、看取りでない症例は21例でした。
  • 看取りでない21例のうち、20例(95.2%)が三井病院への入院中に亡くなり、1人(4.8%)が他院に運ばれて亡くなっています。

訪問診療開始から死亡までの日数

  • 訪問診療を開始してから、症例が亡くなるまでの日数は、最短8日、最長707日、平均が197.8日でした。
  • 訪問診療を開始してから1か月以内に亡くなった9例の原疾患は、肺癌が4例、前立腺癌が2例、胆嚢癌、胃癌、肺結核後遺症が1例ずつで、悪性疾患がほぼ9割を占めています。
  • 最長の707日の原疾患は、慢性骨髄性白血病でした。

良性疾患/悪性疾患別の死因

  • 良性疾患15例と悪性疾患15例の死因を比較してみました。
  • 良性疾患では、15例中10例(66.7%)が原疾患の増悪によるもので、慢性呼吸不全/慢性心不全の急性増悪や、非代償性肝硬変増悪による肝不全などでした。
  • 悪性疾患では、15例中12例(80.0%)が原疾患の増悪による死亡でした。他の死因の3例は、1)92歳でご家族のインフルエンザがうつり、40度の発熱で意識レベルが低下。依頼により緊急往診した私の目の前で呼吸停止された症例。2)84歳で慢性骨髄性白血病は安定していたものの、両下腿の閉塞性動脈硬化症で壊疽を起こし感染を合併した症例。3)101歳の前立腺癌で、ホルモン療法が奏功していたものの誤嚥性肺炎を合併し岡山赤十字病院で死亡された症例でした。

在宅酸素療法と死亡までの日数

  • 良性疾患、悪性疾患にかかわらず、在宅酸素療法を導入した症例のほうが、訪問診療を開始してから死亡するまでの日数が短い傾向にありました。
  • 在宅酸素導入例は9例で、死亡までの平均日数が89.8日でした。
  • 在宅酸素非導入例は21例で、死亡までの平均日数が244.1日でした。
  • 肺気腫と間質性肺炎の2例で、7L/分以上の酸素吸入を要したため、既存の酸素濃縮器では対応できず、液体酸素による在宅酸素療法を行いました。

麻薬使用と死亡までの日数

  • 悪性疾患15例について、経過中、疼痛緩和目的の麻薬使用の有無と、死亡までの日数について検討しました。
  • 疼痛緩和に麻薬を使用したのは6例で、死亡までの平均日数は28.3日でした。
  • 一方、麻薬非使用であったのは9例で、死亡までの平均日数は227.3日でした。

まとめ

  1. 最近1年半の間に死亡した玉野三井病院訪問診療の患者30症例についての検討を行いました。
  2. 原疾患が良性のもの15例、悪性のもの15例でした。
  3. ほとんどの症例で、安定期は在宅介護力がしっかりしていましたが、在宅での看取りとなったのは良性疾患3例、悪性疾患3例でした。状態が急変して入院となり、7日以内に死亡した良性疾患3例が、病院での看取りに数えられました。
  4. 在宅での看取りができるように、外部の訪問看護ステーションと連携を取りながら、ご家族へのサポートを強化するよう努力していますが、一方最終的な急変時に病院で過ごすことを望まれる方が多いのも事実です。そういった方に対して、味気ない病室ではなく、最期をご家族と過ごせる温かみのあるスペースを提供するのも病院の役目かと思うようになりました。

告知

今回の診療報酬改正で、医療度の高い患者に対し、退院後医療保険での訪問看護の介入が週1回を限度に入院していた病院の看護師に認められています。これは、介護保険での訪問看護と重なっても全く問題ないそうです。玉野三井病院は、今までご協力いただいている外部の訪問看護ステーションと競合することのないよう、医療保険での訪問看護を少しずつ進めていきますので今後とも密な連携を取りながら、ご協力をよろしくお願いいたします。